亡くなったのが3月中旬で、これから田植えに備えようかという時期でした。「これから収穫という時期でなくてよかった」とAさん。お父さんは脱サラで農業を始めたため、Aさん達兄弟は農業について何もわからない状態です。
相続手続きのご依頼をいただいて、財産調査とすぐできる手続きを同時並行で進めました。お父さんの取引先はJA、出荷契約をしている地元問屋、スーパーなどでした。各取引先に未処理のことや取引上必要な手続きがないか確認して回りましたが、出荷時期ではなかったことから、取引上はそう問題はありませんでした。
次に、通帳の取引履歴から、支払いがまだ先、入金がまだ先などないか調べました。保険、農機具の修理・購入、生活上の主とした引落などはJAと取引しており、担当の方が丁寧に対応してくださり、一つ一つ完了していきました。
しかし毎年「組合費」という支払いがあり、JAでも何なのかわかりませんでした。近隣の方に聞いて回ったところ、ある農業法人だということが分かり、組合退会による出資金が戻り、未払い作業料金を入金していただきました。
もう一つ、「積立金」という支払いも何なのかわかりません。調べてみると、収入減少等に備えるために積立てるもので、農政局で手続きを行う交付金積立ということが判明し、返納してもらいました。
一通りの手続きが終わり、Aさんに報告しました。「農産物を黙々と作って売っているだけだと思っていたけど、ずいぶん手続きがあり、取引先も多く、農作業以外にもやることが多かったんですね」とAさんは驚かれていました。
さらに注意が必要なのが、故人が「農地」を所有していた場合です。
相続人は、その農地を相続する権利が自分にあると知った日から、原則として10ヶ月以内に、市区町村の農業委員会に対して、状況に応じた「届出」または「許可申請」を行わなければいけません。これ、意外と見落とされがちですが、しっかり期限があるんです。
具体的には、まず相続人が農地をそのまま相続する場合には、「農地法に基づく届出」が必要になります。これは比較的スムーズなケースですね。
次にちょっと複雑になるのが、農地を相続人以外の人に遺贈したり、耕作目的で他の方に売る場合。このときには「農地法第3条許可」という手続きが必要になります。耕作する人に農地を移す場合のルールです。
また、「この農地を使って何か新しいことを始めたい、自分で違う用途に使いたい」と思ったときには、「第4条許可」が必要になります。たとえば駐車場にしたいとか、自宅を建てたいといったケースですね。
さらに、農地を誰か他の人に売って、その人が農業ではない使い方をする予定なら、「第5条許可」が必要になってきます。
こうした手続きは少しややこしく感じるかもしれませんが、背景には「耕作放棄地がこれ以上増えないように」という国や自治体の思いがあります。放っておくと荒れてしまう農地を、できるだけ活用してもらいたいという考え方ですね。
農地が相続財産に含まれている場合は、専門家に早めに相談することで、スムーズに進められますよ。