その息子さんが40歳の時に、突然の病で亡くなりました。息子さんの預金通帳を銀行で解約しようとしたところ「もう一人の相続人である元奥さんの了解がないと解約できない」と言われました。元奥さんは40年前に離婚して以来、一度も会っておらず、現在はどこに住んでいるのかわからない状況でした。
Kさんは元奥さんの住民票を取り寄せ、記載されている住所に行ってみましたが、そこは更地になっており、近所の人に聞いても消息はわかりませんでした。
「元妻は息子を生んですぐに居なくなったので、本音を言えば、遺産を渡したくない。でもこのままだと息子の遺産がずっと放置されたままになってしまう。法定相続分を渡してもいいから、元妻の行方を調べたい」と相談に来られました。そこで、戸籍を調べ、親戚を突き止め、親戚宛に手紙を送り、何とか無事に手続きが完了しました。
「まさか自分より先に息子が亡くなるなんて思ってもみなかった」というKさんの一言が印象に残っています。
遺言書は大抵の場合、親から子へ遺産を分け与えるために遺すものですが、今回のように親より先に子が亡くなることもあります。自分の相続人の実印と印鑑証明書が、容易にそろわない事情のある方は、年齢に関係なく遺言書は残しておいたほうがいいと感じた案件でした。
親が離婚や再婚をしていると、その後の相続が思っている以上にややこしくなることがあります。たとえば、親が離婚して長年会っていなかったとしても、「親と子」という関係が戸籍上でつながっていれば、相続の権利はちゃんと発生します。気まずかったり疎遠だったりしても、法律上は親子なんですね。
また、びっくりするかもしれませんが、一度も顔を合わせたことのない異父兄弟や異母兄弟にも、相続の権利が発生することがあるんです。親の人生の流れが、子どもたちにこういうかたちで影響してくるというのは、なかなか実感しにくいですが、知っておいて損はありません。
そして、特に注意が必要なのが「連れ子との養子縁組」です。再婚した相手の子どもと、仲良く本当の親子のように過ごしていても、きちんと養子縁組の手続きをしていなければ、その子には相続権は発生しません。逆に言えば、再婚時に養子縁組をしていて、その後に離婚した場合でも、養子縁組の解消をしていなければ、その連れ子には相続権が残り続けるんです。
相続というのは、家族の“過去”が意外と濃く影響する場面です。親の離婚や再婚の経緯を、少し振り返っておくことも、いざというときの備えになりますね。